中小企業でも導入できる退職金制度を比較

中小企業における退職金制度は、企業の持続可能性と従業員の満足度を確保するための重要な要素です。特に中小企業は大企業に比べて人材獲得競争において不利な立場にあることが多いため、魅力的な退職金制度で優秀な人材を引き寄せ、定着させることが必要です。

中小企業にとって、退職金制度は単なる福利厚生の一環ではなく、従業員の士気を高め、生産性の向上を図ることができる重要なファクターです。確定拠出年金や確定給付年金、中小企業退職金共済制度(中退共)などがあり、企業の規模や業種に応じた制度選択が求められます。

また、退職金制度の導入や見直しを行う際には、税制優遇措置などを十分に理解し、専門家の助言を活用することが推奨されます。これにより、退職金制度の適正な運用と従業員への適切な保障を実現し、企業全体の持続的な成長に寄与することができます。

そこで、今回は中小企業が導入できる退職金制度の比較を行っていきます。

\ 少人数でも導入できる企業型DC /

目次

中小企業における退職金制度の重要性

退職金制度は、主に従業員の生活保障と企業の競争力向上を目的として、近年ますますその重要性を増しております。

まず第一に、退職金制度は従業員にとって老後の生活を支える重要な資産となります。特に、昨今の物価上昇の影響もあり、公的年金制度のみでは老後の生活を十分に賄えないケースが多々見受けられます。退職金の存在によって、従業員は長期的な生活設計を描きやすくなり、安心して働くことが可能となります。

さらに、退職金制度の導入は中小企業にとっても大きな利点があります。優秀な人材の採用および維持のためには、他社との明確な差別化が不可欠です。退職金制度は、採用時における魅力の一つとして機能し、これにより中小企業は質の高い労働力を確保しやすくなります。

また、退職金制度は従業員のモチベーション向上にも寄与します。制度設計を巧みに行うことにより、企業に長期的に貢献したいという意欲が高まり、離職率の低下につながります。安定した人材構成は、中小企業の業績向上および事業の安定化において重要な要素であり、したがって、退職金制度は中小企業の持続可能な成長を支える基盤として機能いたします。

加えて、経営者にとっても、退職金制度の計画的準備は財務戦略の一環として重要です。社内積立の退職一時金制度ではなく、退職金制度を整備することで、将来的なキャッシュフローの負担を軽減することができます。特に中小企業においては、財務状況に応じた柔軟な設計が可能な退職金制度の選択が求められるでしょう。このように、退職金制度は中小企業と従業員の双方にとって不可欠な要素であり、その導入には大きな意義があります。

退職金制度の中には、企業および従業員の双方が税制面での優遇措置を活用できる手段も存在します。適切な制度を選択し、計画的に運用することで、税制面での優遇効果を享受しつつ、従業員や役員の資産形成に寄与することが可能です。したがって、退職金制度の導入は、単に従業員の利益にとどまらず、中小企業全体の成長と持続可能性、さらには経営者の生活を支える基盤ともなり得る制度です。

中小企業で選べる退職金制度の種類

厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」によれば、退職給付制度を有していると回答した企業は90.4%に達しています。その内訳として、退職一時金のみを提供する企業は69.0%、退職年金制度のみは9.6%、両制度を併用している企業は21.4%となっています。その中で、中小企業が選択可能な退職金制度にはいくつかの種類が存在し、各退職金制度には独自の利点と課題があります。

まず、退職一時金制度の代表的なものとして、「中小企業退職金共済制度(中退共)」が挙げられます。退職一時金制度には他にも、生命保険等を利用した社内積立があります。一方、退職金制度としては、確定拠出年金(DC)や確定給付企業年金(DB)があります。

各退職金制度には特有のメリットと課題が存在するため、企業の規模や財務状況、従業員のニーズに応じて最適な制度を選定することが重要です。中小企業は、これらの制度を比較検討し、自社に最も適した退職金制度を導入することで、従業員の安心感を高めると同時に、企業の持続的な成長を促進することが求められます。次の章からは、各退職金制度の詳細について詳述していきます。

企業型確定拠出年金

企業型確定拠出年金(DC)は、企業が毎月定額を拠出し、従業員がその資金を運用する仕組みです。この制度においては、従業員自らが運用に関与するため、運用結果に応じて将来受け取る金額が変動する可能性があります。従業員の投資に関する知識が求められるため、教育支援の充実が課題として挙げられます。

大企業中心に広がっていた制度ですが、SBIの提供する確定拠出年金年金は少人数からでも導入可能になっており、中小企業でも導入可能な退職金制度として導入が進んでおります。

ポイント①:掛金等を全額損金算入可能

掛金等につきましては、企業が負担いたしますが、この金額は全額を損金として算入することが可能です。

ポイント②:従業員自身が運用する

企業は掛金を拠出するのみで、従業員がそれを運用し、将来の年金資産を形成する仕組みとなっております。そのため、従業員は自身の生活環境に応じ、取りたいリスクを選び、将来の資産形成を行うことが可能です。

運用を従業員が行うことに不安を抱く方もいらっしゃるかもしれませんが、企業年金連合会が実施している「確定拠出年金実態調査」によれば、各企業の制度導入から2023年3月までの平均運用利回りは3.1%であり、以下の表の通り、利回りが0%以下と回答したのは全体の1.4%に過ぎません。コロナによる株価の低下やロシアのウクライナ侵攻などで2022年の運用環境が悪化したにもかかわらず、多くの導入企業においてプラスの利回りで従業員の老後資産形成ができていることが理解できるかと思います。

運用利回り割合
0%以下1.4%
0%超~2%以下23.5%
2%超~4%以下53.1%
4%超22.0%
※「確定拠出年金実態調査」より作成

さらに、SBIは投資教育のサポートを提供することが可能であり、今後のサービス拡充も予定しております。どうぞお気軽にお問い合わせください。

ポイント③:各種税制優遇

・掛金は所得と見なされないため、資産を積み立てる過程で所得税などの負担を軽減することが可能です。
・一般的に、投資信託などの金融商品を運用する際には、利益に対して約20%の税金が課されますが、企業型確定拠出年金の運用においては、運用益が非課税となります。
・受取時には、受け取り方に応じて「退職所得控除」や「公的年金等控除」を活用することができます。

ポイント④:経営者や役員も制度加入可能

厚生年金保険の被保険者である場合、経営者や役員も加入することが可能です。

ポイント⑤:60歳まで原則受け取り不可

原則として、特定の条件を除き、60歳まで受け取ることができない制度となっております。この制度は、容易に現金化ができない資産であるため、従業員の老後資産の確実な形成に貢献する商品であると言えます。

\ 少人数でも導入できる企業型DC /

企業型確定給付年金

企業型確定給付企業年金(DB)は、従業員の退職後に一定の給付を保障する制度であり、福利厚生としての安心感を高める役割を果たします。しかしながら、企業にとっては長期的な財務的負担を伴うことから、経済環境の変動によって企業に重大な影響を及ぼすリスクも考慮しなければなりません。近年では、一定の金額の給付を保証するのではなく、国債などの利回りに連動した変動利息を付与する「キャッシュバランスプラン」と呼ばれる商品が登場しております。このプランは、国債などに連動する利回りのため積立不足が発生しにくい一方で、安全資産である国債に連動するため、過去の商品と異なり高い利回りを保証するものではない点に注意が必要です。

ポイント①:掛金等を全額損金算入可能

掛金等につきましては、企業が負担いたしますが、この金額は全額を損金として算入することが可能です。

ポイント②:元本が保証されている

近年の「キャッシュバランスプラン」においては、元本が保証されているものの、将来にわたって受け取る金額は確定しておりません。受給金額は、国内の金利状況に応じて利回りが変動いたします(10年国債の1年、3年、5年の平均利率の中から最低の利率が選ばれることが多いです)。長期にわたる低金利の影響により、ここ数年では0~0.5%程度の低い値で推移している例が多く見受けられます。

ポイント③:企業に追加負担が生じる可能性がある

委託先の運用が約束された利回りを下回り、積立不足が発生した場合であっても、委託先が責任を持って補填するわけではありません。そのため、導入企業側が追加で掛金を拠出する必要が生じます。

また、同制度を導入している他企業が掛金を支払えなくなった場合にも注意が必要です。未納期間が1年に達すると強制脱退が可能なケースが多いものの、逆に言えば1年に満たない期間では脱退をさせられません。未納の事業所が倒産するなどして徴収が困難になった場合でも、従業員に対して退職金を支払う義務が生じることがあります。このような場合、積立不足が発生すると、同制度を導入している他の企業が追加で掛金を拠出する必要が生じることがあります。

確定拠出年金制度とは異なり、掛金を拠出した後に従業員に運用を委ねる制度ではないため、委託先や他企業の未納によって追加の負担が発生する可能性があります。これは特に中小企業にとって予期せぬキャッシュフローの支出を招く可能性があるため、特別な注意が必要です。

ポイント④:各種税制優遇

・掛金は所得と見なされないため、資産を積み立てる過程で所得税などの負担を軽減することが可能です。
・受取時には、受け取り方に応じて「退職所得控除」や「公的年金等控除」を活用することができます。

ポイント⑤:経営者や役員も制度加入可能

厚生年金保険の被保険者である場合、経営者や役員も加入することが可能です。

中小企業退職金共済

中小企業退職金共済制度は、事業主が中退共と退職金共済契約を締結し、毎月金融機関に対して納付を行い、従業員が退職した際には、中退共から直接従業員に退職金が支払われる仕組みで運営されております。独立行政法人勤労者退職金共済機構 中小企業退職金共済事業本部(中退共)が運営するこの制度は、比較的低コストでの導入が可能であり、国からの助成金を受けられる点が大きな魅力となっております。しかしながら、従業員のみが加入対象であり、経営者や役員は加入できない点に注意が必要です。また、この制度は中小企業向けのものであるため、資本金や従業員数が要件から外れた場合には、制度の移行等が必要となります。

ポイント①:国の助成

制度導入から4ヶ月目以降、1年間にわたり掛金の2分の1(上限5,000円/従業員)が助成されます。さらに、掛金月額が18,000円以下の従業員の掛金を増額した場合、増額分の3分の1が1年間、国により助成されます。いずれも1年間限定の措置であるため、掛金を過度に引き上げると経営状況に影響を及ぼす可能性がある点に注意が求められます。

ポイント②:掛金が全額損金

中小企業が負担する拠出金は、全額を損金として計上することが可能です。

ポイント③:加入対象

中小企業の従業員のみを対象としており、経営者および役員は加入することができません

ポイント④:退職金の金額

納付後1年未満で退職された場合、退職金は支給されません。1年以上2年未満の期間で退職されると、退職金は支給されますが、掛金総額を下回る元本割れの状態となります。2年以上3年7か月未満の場合には、掛金総額の100%が退職金として支給されます。3年7か月を超えると、原則として年利1%※の利息が加算されます。ただし、支給される退職金が掛金総額を下回る場合でも、拠出した金額が返還されるわけではありません。

※中退共の運用状況に応じて利息が付加されることがあります(令和6年からの過去3年の実績は0.1%、0%、0%)。

ポイント⑤:福利厚生サービス

中退共と提携している宿泊施設およびレジャー施設における割引のほか、福利厚生サービスを受けることができます。

ポイント⑥:加入要件

業種に応じて、以下のように中小企業の該当条件が異なっております。
ただし、これらの中小企業の条件に該当しなくなった場合には、解約または他の制度への移行が必要となりますので、ご注意ください。

業種常用従業員数 資本金・出資金
一般業種(製造業、建設業等)300人以下または3億円以下
卸売業100人以下または1億円以下
サービス業100人以下または5千万円以下
小売業50人以下または5千万円以下

養老保険を活用した退職金制度

養老保険を活用することで、将来に備えることが可能です。生命保険会社と法人が契約を結び、法人が保険料を支払います。従業員が満期まで勤務した場合には、法人が満期保険金を受け取り、これを退職金の原資とします。また、従業員が在職中に万が一亡くなった場合には、弔慰金として遺族に直接支払われます。このように、保障と貯蓄を同時に実現できる点が最大の特徴です。ただし、保険料の損金算入は2分の1までであり、2025年2月時点で提供されている円建て商品の多くは返礼率が100%未満であることに留意する必要があります。

ポイント①:保障と貯蓄両面への備え

保険期間の終了を従業員の退職時期に合わせることで、在職中に不測の事態が生じた場合の弔慰金への備えとして死亡保険金を、退職時に支給する退職金の原資として満期保険金を利用することが可能となる場合がございます。

ポイント②:保険料の1/2を損金算入

契約者を法人、被保険者を従業員、死亡保険金の受取人を役員・従業員の遺族、満期保険金の受取人を法人とすることにより、原則として保険料の半分を損金に算入することが可能です。

ポイント③:従業員全員を被保険者とする必要がある

福利厚生に関しましては、全従業員を対象とすることが求められます。また、保障を実施するために告知等を行う必要がある場合がございます。さらに、審査に通過しなかった従業員に対する退職金を含めた準備は、別途整えることが重要となります。

ポイント④:受け取れる保険金の金額

現在の低金利の影響により、国内の円建て商品では多くが返礼率100%未満、すなわち保険料よりも受け取れる保険金額が少ないことに注意が必要です。また、従業員が早期退職した場合、解約返戻金を退職金として充てることが可能ですが、その返戻率がさらに低いため、早期退職の可能性がある場合には特に注意が求められます。

さらに、返戻率が高いドル建ての商品も存在しますが、これには為替リスクを伴うことを考慮する必要があります。

まとめ

本稿では、中小企業における退職金制度の重要性および導入可能な種類について詳述いたしました。中小企業が活用可能な退職金制度には、中小企業退職金共済、養老保険を利用した退職金制度、企業型確定拠出年金、企業型確定給付年金などがございます。それぞれの制度には固有の特徴と利点・欠点が存在し、企業の規模や財務状況、従業員のニーズに応じた最適な選択が求められます。

中小企業退職金共済は、1年限定の助成があり導入が容易であるものの、役員は加入できません。養老保険は柔軟な運用が可能ですが、損金算入は1/2に限られ、最終的に受け取れる保険金額にも留意が必要です。企業型確定拠出年金は、従業員の自己責任による資産運用が求められるため、教育やサポート体制が重要となります。企業型確定給付年金は、安定した退職金を提供できますが、企業に追加の負担が生じる可能性がある点に注意が必要です。

退職金制度の選択にあたっては、税制優遇の活用や、長期的な運用計画の策定が重要となります。特に中小企業においては、限られた資源をいかに最大限に活用するかが鍵となります。各制度の特徴を理解し、企業の戦略に合致した制度を選択することで、従業員の定着率向上や企業の魅力向上につながるでしょう。

最終的には、退職金制度は単なる福利厚生の一部ではなく、企業の持続的成長を支える重要な要素であることを認識し、慎重な選択が必要です。

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この記事を書いた人

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