最近、企業で導入する福利厚生の1つとして「企業型確定拠出年金(企業型DC)」が注目を集めています。税制優遇や転職時の資産持ち運びといったメリットもある中で、60歳まで引き出せない、元本割れのリスクがあるなどのデメリットも知っておきたいという企業経営者様やご担当者様も多いのではないでしょうか。本記事では、企業型確定拠出年金(企業型DC)の導入を検討する際に知っておくべきポイントを詳しく解説します。
デメリットにどのような対策ができるかも含めて1つ1つ解説していきますので、適切な対策を講じ、企業と従業員双方にとって有益な制度導入となる一助となればと思います。
\SBIの企業型DCについて聞いてみたい!/
企業型確定拠出年金(企業型DC)とは?制度の概要を解説
企業型確定拠出年金(企業型DC)とは、企業が従業員の老後の資産形成をサポートするために導入する福利厚生制度の1つです。企業が掛金を拠出し、加入者である従業員自身が運用商品を選び、長期にわたって運用していく仕組みです。

企業型確定拠出年金(企業型DC)の特徴は、その名前の通り「拠出額(掛金)」が確定している一方で、将来の「給付額(受取額)」は個人それぞれの運用成果によって変動する点にあります。これは、将来の給付額があらかじめ決まっている「確定給付企業年金(DB)」との大きな違いです。個人型のiDeCoと同様に拠出・運用・受取のそれぞれのポイントで税制上の優遇措置が設けられています。
積み立てた資産は原則として企業が決めた60歳以降の年齢(資格喪失年齢)に、年金または一時金として受け取ることができます。従業員の主体的な運用が求められるため、企業には継続的な投資教育の機会を提供することが期待されます。
2010年3月末時点の加入者数は341万人でしたが、2022年3月末時点では782万人にのぼっています。導入する企業・加入者数は年々増加していることが分かります。
一般的に、企業型確定拠出年金(企業型DC)に加入できるのは以下の条件を満たす従業員です。
<企業型DCの加入者条件>
- 制度を導入している企業の従業員であること
- 厚生年金被保険者であること
- 原則として70歳未満であること
\SBIの企業型DCについて聞いてみたい!/
企業型確定拠出年金(企業型DC)のデメリット
メリットを理解した上で、本記事の本題でもある企業型確定拠出年金(企業型DC)のデメリットも挙げていきます。こちらも加入者・企業のデメリットに分けると以下のようになります。
■企業型確定拠出年金(企業型DC)のデメリット
【加入者のデメリット】
●60歳まで引き出せないデメリットがある
●元本割れリスクのデメリットがある
●運用商品ラインナップが少ない可能性があるデメリットがある
●転職時の手続が面倒というデメリットがある
【会社のデメリット】
●加入者掛金・運営費の負担が発生するデメリットがある
●制度の事務負担が発生するデメリットがある
●従業員への投資教育が必要になるデメリットがある
それでは、それぞれの項目について詳しく見ていきましょう。
【加入者のデメリット】
●60歳まで引き出せないデメリットがある
企業型確定拠出年金(企業型DC)は老後資金の形成を目的とした制度のため、積み立てた資産は原則として60歳まで引き出すことができません。
前述したようにポータビリティ制度を活用して年金資産を移管するので、転職などの退職時には現金として受取れない点では、他の退職金制度と異なるポイントとなります。
途中引き出しができないので、万が一、病気や失業などの事情で突発的にまとまった資金が必要になっても例外的な要件を満たさない限り途中での解約や現金化は認められていません。このような流動性の低さはデメリットとみられることもあります。
●元本割れリスクのデメリットがある
企業型確定拠出年金(企業型DC)は、加入者自身が運用商品を選択して運用を進めます。運用の状況によっては元本割れ(積み立てた総額よりも資産が目減りすること)のリスクがある点はデメリットと言えるでしょう。
企業型確定拠出年金(企業型DC)の運用商品は、投資信託などの「元本変動型」がメインとなりますが、定期預金や年金保険といった「元本確保型商品」もあるので、どうしても元本割れが心配な従業員の方や受取時期が近く資産を増やすことよりも着実に年金資産を確保したい場合には「元本確保型商品」を選択することもできます。
企業としては、従業員の方がこうしたリスクを正しく理解し、適切な判断ができるよう、継続的な投資教育を実施することが極めて重要です。

●運用商品ラインナップが少ない可能性があるデメリットがある
企業型確定拠出年金(企業型DC)では、制度を運営する金融機関(運営管理機関)を企業が選定するため、加入者である従業員が自分で金融機関を選ぶことはできません。
個人型確定拠出年金(iDeCo)では、個人が自分の好みの運用商品をラインナップしている運営管理機関で加入ができる一方、企業型確定拠出年金(企業型DC)では運営管理機関は個人で選べないので企業の選んだ運営管理機関で加入をすることになります。そのため、投資経験が豊富な従業員の方にとっては、自分が運用したい特定の投資信託などがラインナップに含まれていない可能性があり、デメリットと感じる場合があります。
●転職時の手続が面倒というデメリットがある
企業型確定拠出年金(企業型DC)に加入している従業員が退職・転職し、資産を移管する際には、積み立てた資産を次の制度へ移す「移換手続き」が必要になります。
この手続きを退職後6ヶ月以内に行わないと、資産は現金化された上で「国民年-金基金連合会」へ自動的に移換されてしまいます。自動移換の状態では、資産が運用されない(できない)状態で、管理手数料だけが差し引かれ続けるため資産が目減りしてしまうリスクがあります。このように手続きを自分で行わなければならないので煩わしいと思う方も居るでしょう。
【会社のデメリット】
●加入者掛金・運営費の負担が発生するデメリットがある
企業型確定拠出年金(企業型DC)を導入すると、企業は従業員のために毎月掛金を拠出することに加え、制度運営にかかるコストも負担する必要があります。
具体的には、制度導入時の初期費用や従業員1人1人の確定拠出年金のための口座開設に掛かる手数料、運営管理機関(金融機関)に支払う手数料などが継続的に発生します。導入前には長期的な視点でランニングコストを見積もっておくことが不可欠です。
●制度の事務負担が発生するデメリットがある
新規で福利厚生の取組を行う場合どのような内容のものを取り入れたとしても同じですが、企業型確定拠出年金(企業型DC)でも人事や制度を管理する担当者の方は必要となります。企業型確定拠出年金(企業型DC)の場合には、企業で制度を導入するにあたって就業規則の提出や制度設計を詰めていったりと申し込み時に書類を作成したり揃えたりする手間はあります。
また、企業型確定拠出年金(企業型DC)導入後に加入者の管理を行う必要があります。入社された方が居た場合には、運営管理機関の窓口に加入者追加の申告をしたり、反対に退社された方が居たら加入対象から外す申告が必要になります。
\SBIの企業型DCについて聞いてみたい!/
●従業員への投資教育が必要になるデメリットがある
企業型確定拠出年金(企業型DC)では、従業員が自己責任で資産運用を行うため企業が従業員に対して継続的な投資教育を提供することは、努力義務とされています。
これは、従業員が制度を正しく理解し、適切な資産形成を行えるようサポートするためのものです。投資経験のない従業員が十分な知識なしに運用を始め、大きな損失を被ることがないようにしなければなりません。
そのため、企業は導入時だけでなく、定期的にセミナーを開催したり、情報提供を行ったりする必要があります。自社で対応するには手間がかかり、外部に委託する場合はコストが発生するため、この投資教育の実施は企業の新たな負担となり得ます。運営管理機関によっては教育サポートが充実している場合もあるため、金融機関選定の重要な判断材料となります。
企業型確定拠出年金(企業型DC)のデメリットへの対策方法や考え方を解説!
ここまで、企業型確定拠出年金(企業型DC)のデメリットまでを解説してきました。しかし、上述したデメリットは解消することはできないのでしょうか?前述のデメリットを踏まえた上で対策となる考え方などをご紹介します。デメリットへの対策を箇条書きにすると以下の通りです。
■デメリットへの対策
【加入者のデメリットへの対策】
・「60歳まで引き出せない」⇒老後の資産を着実に蓄えられる(iDeCoも同じ)
・「元本割れのリスクがある」⇒分散投資でリスクを最小限にとどめる
・「運用商品のラインナップが限られている」⇒運用商品ラインナップが充実しているものを導入する!
・「転職時の手続が面倒」⇒書類手続きなどを着実にこなすことが大切
【会社のデメリットへの対策】
・「加入者掛金・運営費の負担が発生する」⇒社会保険料は労使折半部分削減できることで企業の負担軽減にもつながる
・「制度の事務負担が発生する」⇒導入時の負担は確かにある!けれど始まってしまえば入退社管理が基本!
・「従業員へ従業員向け説明会や投資教育が必要になる」⇒導入時に代行してくれるオプションを付けよう!
ここでは、企業型確定拠出年金(企業型DC)のデメリットへの対策方法や考え方を1つ1つ解説していきます。
\iDeCoだけじゃないの?SBIの企業型DC!!/
【加入者のデメリットへの対策】
「60歳まで引き出せない」⇒老後の資産を着実に蓄えられる(iDeCoも同じ)
60歳まで現金化できないので、突発的に資金が必要になった際に現金が手に入らないのは確かにデメリットです。
しかし、手元に現金があった場合、つい使ってしまいたくなるという方も多いのではないでしょうか?確定拠出年金制度は、「老後の資産形成」を目的としているので、途中で解約ができてしまう仕組みよりも確実に老後資産を蓄えることができると言えます。また、長期間にわたって運用することによって運用のリスクを軽減することにもつながるので、一概にデメリットとは言い切れないのです。
\SBIでも企業型DCプランがある!/
「元本割れのリスクがある」⇒分散投資でリスクを最小限にとどめる
よく投資の王道と言われている「長期・積立・分散」の3つの手法をご存知でしょうか?これは、
・長期:投資を短期でなく長期に亘って運用する
・積立:運用商品の購入タイミングを積立方式などで定期的に決まった額購入する
・分散:購入する運用商品を分散させる
といった方法で投資のリスクを小さくすることができるという内容です。
長年にわたり運用し毎月コツコツ決まった額の投資信託商品を購入する仕組みである企業型確定拠出年金(企業型DC)では、この「長期・積立」については、制度上で自動的にリスク分散をすることができます。
個人で取組むこととしては、購入する運用商品の「分散」のみです。企業型確定拠出年金(企業型DC)は、個人が運用商品を選択して運用する仕組みなので、購入する運用商品を複数に分け、運用商品を分散させる「分散投資」を意識することでリスクを小さくすることができます。
企業型確定拠出年金(企業型DC)制度でラインナップされている投資信託商品の中には、国内債券や海外債券、国内株式や海外株式、リートなど種類が分かれています。一般的に株式の比率が高いとリスクが高いと言われているので、債券と株式、国内と海外など上手く組み合わせて運用商品を分散投資しましょう。
\SBIの企業型DCについて聞いてみたい!/
「運用商品のラインナップが限られている」⇒運用商品ラインナップが充実しているものを導入する!
企業型確定拠出年金(企業型DC)では、所属している企業がどの運営管理機関の制度を導入しているかで運用できる商品も決まります。そのため、今から企業型確定拠出年金(企業型DC)を導入しようと考えている企業は、幅広い商品のニーズに応えられるような商品ラインナップが揃っているのかも見ておく必要があります。
<企業型確定拠出年金(企業型DC)商品ラインナップを見る時のチェックポイント>
- 投資信託商品のパッシブ型、アクティブ型、ターゲットデートファンドなどそれぞれの種類に応じて商品数が豊富である
- 投資信託での運用に掛かる手数料(信託報酬や信託財産留保額)が低い商品が揃っている
- 万が一、運用したくない従業員のためには元本確保型の商品がある
例えば、SBIの企業型確定拠出年金(企業型DC)では、幅広いニーズに応えられるよう運営管理機関の中では最多レベルの運用商品を揃えています。
\SBIの企業型DCは運用商品ラインナップが充実してる!/
「転職時の手続が面倒」⇒書類手続きなどを着実にこなすことが大切
転職時には、確かに企業型確定拠出年金(企業型DC)の資産を移管するための移管手続きなどの作業が必要になります。書類手続きは少々面倒ではありますが、冷静に対処すれば書類手続きを終えることができます。
会社によっては退職時にまとめて本人の手元に渡されることもありますが、①会社人事などから従業員本人向けに渡される書類、②会社で導入していた運営管理機関から郵送などで直接本人宛に送られてくる書類、のように両方から書類が届く可能性があるものと覚えておき、それぞれの書類に記載されている内容で手続きをとりましょう。
また、6か月以内に対応すればよいので期間的にも猶予はあると言えます。
【会社のデメリットへの対策】
「加入者掛金・運営費の負担が発生する」⇒社会保険料は労使折半部分削減できることで企業の負担軽減にもつながる
確かに企業が企業型確定拠出年金(企業型DC)を導入する際には、初期費用や経常費用が掛かります。しかし、企業型確定拠出年金(企業型DC)の掛金部分は税金と社会保険料の算定の対象にはなりません(マッチング形式をとる場合、マッチング部分を除く)。
社会保険料は労使折半、つまり企業と従業員本人が半額ずつ負担していますので、その部分を削減できる点も考慮に入れましょう。
また、上乗せをする場合は純粋に企業負担が増えるように考えられがちですが、単純に1人1万円分の企業負担で賃上げをしたいと考えた場合、1万円部分に税金と社会保険が課されるため、1万円が丸々従業員への手元に届くわけではありませんが、企業型確定拠出年金(企業型DC)の掛金として1万円分上乗せをしたら1万円が丸々従業員の手元に届くと考えると非常に効率が良いと考えることができるでしょう。
\SBIの企業型DCについて聞いてみたい!/
「制度の事務負担が発生する」⇒導入時の負担は確かにある!けれど始まってしまえば入退社管理が基本!
企業型確定拠出年金(企業型DC)を導入する際に人事や総務担当者などの事務負担が多大になることを懸念される企業様も多いです。しかし、制度が始まってから企業の担当者が企業型確定拠出年金(企業型DC)のためにやることとしては主に以下になります。
・従業員の入退社があったら運営管理機関の所定の手続きに従って申告する
・給与改定時期など給与の変更時期に給与明細やそれに関連するシステムの設定を変更する
・企業型確定拠出年金(企業型DC)の支払いに関する稟議や決裁をとっておく
その他、企業型確定拠出年金(企業型DC)の制度内容を変更する際は運営管理機関などへの相談が必要になりますが、毎月のルーチンワークとしてはあまり手間では無いと言えます。従業員の運用商品の買い替え(スイッチング)や購入商品の購入割合の配分の操作、運用中の金額の管理などは従業員本人が実施することであり企業として取り組むタスクはありません。
確かに導入前の書類準備や制度設計には時間を要しますが、導入後にはそれほど手間がかからないと言えるのではないでしょうか?
\SBIの企業型DCについて聞いてみたい!/
「従業員へ従業員向け説明会や投資教育が必要になる」⇒導入時に代行してくれるオプションを付けよう!
企業型確定拠出年金(企業型DC)を導入すると企業は従業員に対して(企業型DC制度に関する)従業員向け説明会や運用に関する投資教育を行うことが義務づけられています。
しかし、社内に上手く説明できる社員が居ない企業様も多いでしょう。そのような場合には導入時に、オプションなどでそれらの説明や教育をプロが代行してくれるサービスを利用すると比較的スムーズに進めることができます。義務を果たすことだけでなく、従業員の制度理解が自社の取組の理解に繋がり、離職率の低下に繋がる効果や今まで金融に関する興味が薄かった従業員の金融リテラシーの向上に貢献できるなど思わぬ効果も得られるでしょう。
\SBIの企業型DCについて聞いてみたい!/
企業型確定拠出年金(企業型DC)のメリット
企業型確定拠出年金(企業型DC)のメリットは加入者と導入企業、双方の視点から以下のような項目が挙げられます。
■企業型確定拠出年金(企業型DC)のメリット
【加入者のメリット】
●企業型確定拠出年金は税制優遇をうけながら効率よく資産運用をすることができる
●企業型確定拠出年金には転職時に資産を持ち運べるポータビリティ制度がある
●企業型確定拠出年金では口座管理手数料は企業負担
【会社のメリット】
●事業主掛金や制度に掛かる運営費を全額「損金扱い」にできる
●万が一、運用により積立金が目減りしてしまっても、会社の補てんは不要
ここからは、それぞれの項目について、詳しく見ていきます。
【加入者のメリット】
●企業型確定拠出年金は税制優遇をうけながら効率よく資産運用をすることができる
企業型確定拠出年金(企業型DC)が持つ最大のメリットは「拠出時」「運用時」「受取時」の3つのポイントで税制優遇が受けられる点です。これにより老後のための資産形成を効率的に行うことができます。

1. 拠出時:掛金が非課税・所得控除の対象に
企業が拠出する掛金は給与とは見なされず、所得税・住民税の課税対象にならないので効率よく積み立てることができます。更に、企業で「マッチング拠出」以外の形式で制度を導入している場合、掛金は社会保険料の対象にもならないという点もポイントとなります。
例えば、以下のように従業員の賃上げと比較した場合、年間でどの程度の負担軽減ができるのかシミュレーションしてみます。
■「月額1万円を昇給して受け取る場合」と「月額1万円を掛金拠出する場合」の比較
【年齢30歳/月額の給与が24万円/東京勤務】の方のケース(年間)
≪月額1万円を昇給して受け取る場合(昇給後25万円)≫
- 税金(所得税・住民税)の負担額:168,100円
- 社会保険料の負担軽減額:約459,168円
⇒合計:627,268円
≪月額1万円を掛金拠出する場合≫
- 税金(所得税・住民税)の負担額:160,700円
- 社会保険料の負担額:424,512円
⇒合計:585,212円
★差額:約4.2万円(「月額1万円を掛金拠出する場合」の方が軽減されている)
となり、合計して年間約4.2万円もの負担軽減ができるのです。年齢や勤務地、月額給与や掛金等の条件によって軽減額は異なるので自分の状況に合ったシミュレーションは必要にはなりますが、長年積み立てると負担軽減だけでも効果は大きくなると言えます。
また、企業側にとっても、拠出した掛金は全額損金計上できるため、法人税の負担を抑える効果があります。
\SBIの企業型DCについて聞いてみたい!/
2. 運用時:運用益がすべて非課税
通常、一般口座で運用を行うと、運用で得た運用益に約20%(20.315%)の税金が課されます。しかし、企業型DCの制度を活用すると、これらの運用益が全て非課税となります。 非課税になった利益はそのまま再投資に回せるため複利効果を最大化できます。特に長期にわたる運用では、この非課税メリットは非常に大きな差となって現れます。
3. 受取時:各種控除で税負担を大幅に軽減
企業型確定拠出年金(企業型DC)では、企業で60歳~70歳の間の年齢で資格喪失年齢を設け、所属している従業員は皆、所属企業で定められた資格喪失年齢まで掛金を拠出することになります。
無事に資格喪失年齢までご本人の年齢が達し、今まで積み立てた資産を受け取る際は、 一時金または年金形式で資産を受け取ることができ、それぞれ各種控除を活用することができます。一時金として一括で受け取る場合は「退職所得控除」が適用されます。「退職所得控除」は一般的に勤続年数に応じて控除額が大きくなるものですが、企業型確定拠出年金(企業型DC)での考え方では加入者期間(掛金を拠出していた期間)がカウントされます。 また、年金として分割で受け取る場合は「公的年金等控除」が適用され、公的年金などと合算した上で一定額が控除されるものです。
このように、企業型DCは「積立時・運用時・受取時」のポイントで税制優遇を受けられ、効率よく資産形成できる点で従業員にとってメリットの大きい制度です。
●企業型確定拠出年金には転職時に資産を持ち運べるポータビリティ制度がある
企業型確定拠出年金(企業型DC)には、積み立てた年金資産を転職や離職時に持ち運べる「ポータビリティ」制度があります。これにより、従業員は転職などでキャリアチェンジをしても、築いた資産を失うことなく次の場所でも運用することができるのです。
移換先のベーシックなパターンは、以下の2つです。
- 転職先に企業型確定拠出年金(企業型DC)制度がある場合:転職先の企業型確定拠出年金(企業型DC)へ移管
- 転職先に企業型確定拠出年金(企業型DC)制度がない場合/独立して自営業者になった場合や公務員になった場合:個人型確定拠出年金(iDeCo)へ移管
移換する際、一度他制度に移ることになるので一旦現金化され、次の制度に移管される仕組みですが、一度現金化する際にも税金が課されることはありません。この「ポータビリティ制度」のおかげで従業員の方は長期的な資産形成を継続できます。
●企業型確定拠出年金では口座管理手数料は企業負担
企業型確定拠出年金(企業型DC)では、制度の利用に必要となる口座管理手数料が企業負担となるため、従業員の負担を抑えながら効率的に老後資産の準備を始めることができます。
個人型確定拠出年金(iDeCo)の場合は、口座管理手数料など運用にかかる手数料は加入者自身が負担しているので、企業型確定拠出年金(企業型DC)制度を会社で導入している場合は、そのような手数料も会社に肩代わりしてもらっていると捉えることもできるでしょう。企業の福利厚生の手厚さを示すアピールポイントともなります。
【会社のメリット】
●事業主掛金や制度に掛かる運営費を全額「損金扱い」にできる
企業が企業型確定拠出年金(企業型DC)の掛金として拠出する掛金や制度の運営費用は法人税法上、全額を損金として算入できます。給与とは見なされないため、課税対象所得を圧縮し、法人税の負担を軽減する効果があります。
●万が一、運用により積立金が目減りしてしまっても、会社の補てんは不要
企業型確定拠出年金(企業型DC)では、運用責任を従業員が負うため、仮に運用によって資産が目減りしても企業がその不足分を補てんする義務はありません。
これは、将来の給付額を企業が約束する「確定給付年金(DB)」との決定的な違いです。確定給付年金(DB)制度では運用が悪化した場合、企業に追加の掛金負担が発生するリスクがありますが、企業型確定拠出年金(企業型DC)制度ではその心配がなく、将来の財務計画が立てやすいという大きなメリットがあります。
\SBIの企業型DCについて聞いてみたい!/
企業型確定拠出年金(企業型DC)と他の企業年金制度との違いは?
企業ができる退職金・年金制度は企業型確定拠出年金(企業型DC)制度だけなのでしょうか?ここでは、企業型確定拠出年金(企業型DC)とよく比較される制度についてご紹介します。
iDeCo(個人型確定拠出年金)との違い
個人型確定拠出年金(iDeCo)は、掛金や事務手数料など含め全額加入者自身が負担する私的な年金制度です。個人が任意で加入できるので運営管理機関などを自由に選ぶことができます。
一方、企業型確定拠出年金(企業型DC)は企業が手数料を負担し、加入手続きも代行するため、従業員は金銭的・事務的な負担なく資産形成を始められる点で従業員のための福利厚生制度となります。
特に、口座管理手数料については、最も手数料の低い運営管理機関で加入しても最低171円/月が掛かるので年間約2,000円程度の手数料を自己負担することになるという点がデメリットになります。
確定給付年金(DB)との違い
企業型確定拠出年金(企業型DC)の導入を検討する際によく比較の対象となるのは、確定給付企業年金(DB)制度です。
両制度は名前を見ると良く特徴が理解できるのですが、「企業型確定拠出年金(企業型DC)」が毎月の拠出する金額を確定させる制度である一方、「確定給付企業年金(DB)」は、従業員が将来受け取る給付額を企業があらかじめ約束する制度です。
そのため、確定給付企業年金(DB)制度を導入し万が一運用がうまくいかず約束した給付額に対して積立不足が発生した場合には、企業がその不足分を追加で拠出し、補てんする義務が生じます。
企業型確定拠出年金(企業型DC)では、従業員1人1人が好きな運用商品を選ぶことができますが、確定給付企業年金(DB)では、外部機関が運用を進めるので従業員は運用を自身で行うことはできません。
従業員にとっては将来の受取額が見通しやすい安心感がありますが、企業にとっては将来的な財務負担のリスクを抱えることになります。企業型DCは、この追加拠出リスクを負わずに済むという点で、企業側のメリットが大きい制度と言えます。
\SBIの企業型DCについて聞いてみたい!/
中小企業退職金共済との違い
企業型確定拠出年金(企業型DC)を導入検討の際に比較対象となるもう1つの制度として「中小企業退職金共済」もあります。
中小企業退職金共済は、定められた範囲の中小企業が加入できるもので、掛金は全額企業が負担します。月々の掛金は5,000円~30,000円の範囲で16通りから選択することができる制度です。
従業員のための制度なので、役員は加入をすることができないという点も大きなポイントとなります。
まとめ(企業型確定拠出年金のデメリットも理解し、導入検討を進めよう!)

本記事では、福利厚生制度として注目される企業型確定拠出年金(企業型DC)について、導入を検討する企業が知っておくべきデメリット(やメリット)を解説しました。
企業型DCは、デメリットもある一方、「拠出・運用・受取時」の税制優遇や、損金算入による法人税負担の軽減など、従業員と企業の双方に大きなメリットがあると言えます。
デメリットも理解し適切に運営すれば、従業員の資産形成を力強く支援し、福利厚生の充実により企業の魅力を高められる制度なので検討してみてください。本記事が、貴社にとって最適な制度導入の一助となれば幸いです。
また、企業型確定拠出年金(企業型DC)制度は少し複雑な部分もあるので、一度、個別面談などで詳しく説明を受け検討を進めるのが良いでしょう。