新NISAやiDeCoの普及に伴い、企業で導入できる福利厚生(退職金)制度として、企業型確定拠出年金(企業型DC)が注目されています。基本的な仕組みは個人型のiDeCoと類似する部分の多い企業型確定拠出年金(企業型DC)ですが、企業として導入することにより従業員の福利厚生の充実施策の拡充に繋げられるので、人材採用に課題を持っている企業や今在籍している従業員の離職防止に役立つでしょう。
それだけでなく、役員も加入ができるので、従業員・役員共に退職金制度を整えることができます。
しかし、制度の導入には運営に掛かる手数料がかかるので、どのくらいの費用がかかるのか把握し、予算を立てておく必要があります。本記事では、企業型確定拠出年金(企業型DC)制度にかかる手数料(費用)を徹底的に解説します。
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企業型確定拠出年金(企業型DC)制度とは?
企業型確定拠出年金(企業型DC)は、企業が従業員のために提供する年金制度で、会社が毎月一定の掛金を拠出し、従業員が自ら運用商品を選択し資産運用を行います。加入できる従業員の定義として会社によって様々決められますが、そもそもの前提として「厚生年金の被保険者」でなければ加入対象にできません。原則、資産の受取は60歳以降に一時金または年金として受け取ります(個人が選択できます)。

なお、企業が拠出する掛金の額は勤続年数や役職別等、企業に対する貢献などに応じたパターンで設定することもできます。最近では、賃上げの流れにより、既存の給与に上乗せする形で企業型DC掛金を拠出する給与上乗せ支給での導入が増加しています。一方で、企業の負担を抑えつつ、従業員に将来に向けた資産形成の選択肢を与えるために、給与の一部を「生涯設計手当」へ切り出し、従来通り給与として受け取るか、企業型DCへ拠出するか選択できる「選択制DC」の導入もあり、企業の状態や状況によって導入の方法も様々です。
企業型DC制度の導入は、厚生局の申請が必要となるため就業規則の整備や規約の作成、制度設計などを整え、約半年程度の期間が必要となります。そのため、入口部分で導入までサポートをしてくれる企業から導入を進めるのがよいでしょう。
<企業型DCのポイント>
・会社が厚生年金適応事業所であり、加入対象は「厚生年金の被保険者」
・毎月掛金を会社の掛金として拠出、運用商品の選択などは従業員が自分で行う
・従業員はもちろん、役員も加入できる
これまで企業型拠出年金のサービスを提供する機関側の課題もあり、大企業を中心に広がっていた企業型DC制度ですが、SBIの提供するプランでは10名未満の少人数の会社様でも導入が可能・導入までの申請サポートを提供しております。
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企業型確定拠出年金(企業型DC)の手数料を解説
早速、企業型確定拠出年金(企業型DC)を導入したいと考えても、手数料が掛かるので企業としてコストを見積もっておく必要があります。
企業型確定拠出年金(企業型DC)の費用を考える時のポイントは、①タイミングと②手数料を支払う対象に分けて考えると分かりやすいと思います。
①タイミング:初期費用、経常費用、(導入後)その他事由で発生する費用の3つ
②手数料を支払う対象:運営管理機関、資産管理機関の2つ
▶運営管理機関とは?:確定拠出年金制度で厚生労働大臣及び内閣総理大臣の登録を受け運営管理業務(記録関連業務及び運用関連業務)を行う専門機関。企業型DCを導入する会社向けに規約を作成なども行います。また、導入後にも投資教育に関する情報を継続して提供します。運営管理機関には、「記録関連運営管理機関」と「運用関連運営管理機関」があります。
▶資産管理機関とは?:確定拠出年金制度の実施にあたり加入者の年金資産の管理や運営管理機関がとりまとめた運用指示に基づき、運用商品の売買、年金・一時金の支払いなどを行う機関(主に信託銀行)。
また、企業型確定拠出年金(企業型DC)の費用を考える上でポイントとなるのは、1企業あたりに掛かってくる費用と加入者(従業員)1名あたりで掛かる費用に分けられることです。特に、後者の費用は人数が増える毎に掛かってくるので自社で何人くらい加入しそうなのかということも概算で見積もっておく必要があります。
それでは、各費用の詳細を確認していきましょう。
企業型確定拠出年金の初期費用(手数料)

初期費用は、口座開設や新たな契約を締結するための費用や規程類の整備など制度導入にあたり必要になってくる費用です。以下のように表にまとめてみました。
※各費用の説明は一部詳細を省略しています。
※★印が付いているものは加入者(従業員)1名あたりで計算する費用です。
■初期費用
運営管理手数料 | 導入費用 | 110,000円 | 厚生局への申請代行費用、システム登録費用等 |
口座開設手数料★ | 3,300円 | 掛金拠出する方のみ課金 | |
その他費用 | 資産管理契約取扱手数料 | 33,000円 | 資産管理契約締結に係る費用 |
代表事業主手数料 | 55,000円 | 代表事業主による運営管理契約、資産管理契約の締結や制度導入手続きに係る費用 | |
申請書類整備費用、年金規程作成費用 | 55,000円 | 提携社労士に作成を依頼する費用 |
企業型確定拠出年金の経常費用(手数料)
経常費用としては、制度を継続するために必要となってくる事務取次に関する費用や資産管理機関に支払う費用などがあります。
※各費用の説明は一部詳細を省略しています。
※★印が付いているものは加入者(従業員)1名あたりで計算する費用です。
■経常費用(月額)
運営管理手数料・ 事務取次手数料 | 事業主手数料 | 16,500円 | 事務取次サービスや運営継続のために必要となる費用 |
加入者手数料★ | 550円 | 加入者1名あたりに係る費用 | |
資産管理手数料 | 資産管理手数料 | 以下に説明あり | |
その他費用 | 口座振替の費用 | 330円 | 掛金含め、上記手数料もまとめて収納代行するための手数料 |
▶資産管理手数料について:事業所全体の年金資産の月末平均残高に応じ、以下表のような料率で資産管理機関の定める手数料がかかります。
資産残高区分 | 料率(年率) |
5億円以下の部分 | 0.110% |
5億円超10億円以下の部分 | 0.099% |
10億円超20億円以下の部分 | 0.088% |
20億円超50億円以下の部分 | 0.077% |
50億円超100億円以下の部分 | 0.066% |
100億円超の部分 | 0.055% |
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企業型確定拠出年金の(導入後)その他事由で発生する手数料
制度を導入した後、企業として決めた制度を変更したい場合や退職者が発生した際に必要となる費用もあります。導入の際に適当に制度設計するとこれらの費用が必要になってしまう場合もあるので、どのようなポイントで費用発生するか確認しておきましょう。
■導入後に発生する可能性のある費用
移管手数料 | 4,400円(1名1回あたり) | 加入者が退職した際に係る費用 |
還付手数料 | 1,100円(1名あたり) | 退職の届け出が遅れ、余分に掛金拠出されてしまった際に会社に返金するための手数料 |
拠出停止作業費 | 5,500円~(1回あたり) | 口座の残高不足等で掛金の拠出ができない場合など、掛金の拠出を停止する際に発生する作業費。 ※会社で登録する口座の金融機関によって前後する可能性があります。 |
制度保全事務費 | 変更申請等代行費用、5,500~55,000円(1回あたり) | 規約等の変更(加入者範囲などの変更)時に規程等の変更や保全事務に係る費用 |
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運営費(手数料)が掛かるからiDeCoの方がいい?iDeCoとの違いを解説!
ここまでは、企業型確定拠出年金(企業型DC)の制度導入や継続等に掛かる費用を解説してきました。企業で導入する分、割高感を覚えた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
しかし、一概にiDeCoの方が割安とは言い切れないかもしれません。ここでは、そのようなiDeCoと企業型確定拠出年金(企業型DC)との費用面での違いを確認していきます。
<iDeCoとDC費用面での違い>
●DCは、加入者の手数料負担が発生しない(⇔iDeCoは、加入者手数料は自分で支払う)
●DCは、掛金や運営に掛かる費用は全て損金算入できる
●DCは、iDeCoよりも32,000円多く掛金拠出できる ※2025年時点
●DCは、社会保険料の負担軽減もできる可能性がある
各項目について1つずつ見ていきましょう。
DCは、加入者の手数料負担が発生しない(⇔iDeCoは、加入者手数料は自分で支払う)
iDeCoに個人で加入する場合、個人の資産から徴収されているので気づきにくいですが、一番手数料水準が低いと言われているネット証券系で口座開設をした場合でも入会時、初回手数料で約3,000円、口座管理手数料として毎月171円掛かります。年間で計算すると約2,000円程度になります。
最近の大手メガバンクの普通預金(0.2%)で100万円も預けてやっと2,000円の金利が得られるので、個人で手数料を2,000円負担するのは決して小さくない額と言えると思います。
一方で、企業型確定拠出年金(企業型DC)の場合、口座開設や制度加入を継続するための手数料は全て所属する企業が支払ってくれるため個人負担はありません。そう言った意味で従業員にとっては大きな福利厚生制度とも言えます。
DCは、掛金や運営に掛かる費用は全て損金算入できる
企業から支払う掛金は全額福利厚生費として、法人経費として損金算入ができます。
DCは、iDeCoよりも32,000円多く掛金拠出できる ※2025年時点
手数料の話とは少しずれますが、確定拠出年金の掛金は、拠出限度額が法律で定められていてその金額以上の拠出はできません。企業型確定拠出年金(企業型DC)では、55,000円/月。個人型のiDeCoでは23,000円/月が限度となっているので、より多くの金額を拠出したい場合は、企業型確定拠出年金(企業型DC)の方が月々32,000円も多く拠出できることになります。
時々、「企業型確定拠出年金(企業型DC)の制度を導入している企業に所属している人が個人型のiDeCoも併用すれば、月々の拠出限度額が78,000円になるのですか?」という質問をいただきますが、そうではありません。そのようなケースの場合は、両方合わせて55,000円(iDeCoの上限は20,000円に引き下げられること)となります。
DCは、社会保険料の負担軽減もできる可能性がある

社会保険料は企業と従業員が労使折半(半額ずつ)で負担をしています。給与額に基づいて計算され、給与が高くなるほど、企業・従業員の保険料負担も増加する仕組みです。
企業型確定拠出年金(企業型DC)の例えば「選択制」という現行の給与から企業型確定拠出年金の枠を作り掛金拠出する制度を導入した場合、DC掛金として拠出した金額は、給与としてみなされず実質的な給与額が減少することになります。給与が減ることにより標準報酬月額も低下し、それと同時に企業と従業員の社会保険料負担が軽減されるという仕組みです。
しかし、導入の際に従業員への説明をしないと企業に対する不信感が生まれるので、企業型確定拠出年金(企業型DC)制度の説明会や投資教育は欠かせません。
iDeCoは受け取った報酬・給与の中から拠出する仕組みです。企業型DCを導入して上乗せで制度を実施した場合は、その部分は給与とならないため、実質の賃上げをしつつ、社会保険料の上昇を抑えることにもつながります。いたずらに役員報酬や給与を上げるよりも、企業にとって負担が少なくなるということもあります。
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まとめ
今回は、企業型確定拠出年金(企業型DC)を導入・運営していくために掛かる手数料など費用面について詳しく説明しました。費用が掛かる一方で、企業型確定拠出年金(企業型DC)に掛かる費用は損金算入でき、社会保険料の負担軽減にも繋がります。
また、個人型のiDeCoでは従業員が個人で負担をしなければならない手数料が企業負担になるなど福利厚生としての役割や効果も高い制度と言えます。
制度を上手に活用して、企業・従業員共にメリットを最大限に活かしていければと思います。
また、企業型確定拠出年金(企業型DC)の制度設計は、少し複雑な制度になっているので、導入を検討される際には専門家に相談をしてみることをおすすめします。
\企業型DCについてちょっと聞いてみたい!/