日本の企業年金制度において、いま歴史的な転換点が訪れています。これまで長らく企業年金の中心だった「確定給付企業年金(DB)」の加入者数を、「企業型確定拠出年金(企業型DC)」の加入者数が上回るという逆転現象が起きました。
2001年の制度創設以来、普及を続けてきた企業型DCですが、なぜ今これほどまでに多くの企業と従業員に選ばれているのでしょうか。本記事では、この加入者数逆転の背景を紐解きながら、これからの時代に企業が選ぶべき退職金・年金制度のあり方について解説します。
企業年金の勢力図に起きた「歴史的な逆転」
信託協会や生命保険協会などの各受託機関が共同で集計・公表している最新の統計データ(『企業年金の受託概況』等)によると、日本の企業年金制度において長らく主流だった「確定給付企業年金(DB)」の加入者数は、ここ数年微減から横ばい傾向にあります。
同統計の2026年3月末時点(速報値)のデータでは、DBの加入者数が約885万人であったのに対し、企業型確定拠出年金(企業型DC)の加入者数は約893万人となりました。企業型DCは2001年の制度創設以降、一貫して加入者数が増加し続けており、この2026年3月末の集計をもって、企業型DCの加入者数がDBを初めて上回るという歴史的な逆転現象が起きました。
これは単なる数字の逆転にとどまらず、「日本の企業年金のスタンダードが、DBからDCへと大きくシフトしつつある」ことを示唆しています。
加入者数推移の比較(万人)
出典:一般社団法人信託協会「企業年金の受託概況」を基に作成(速報値)
なぜ企業型DCがDBを上回ったのか?3つの背景
長年主流であったDBを抜いて、企業型DCがこれほどまでに普及した背景には、企業側・従業員側双方のニーズの変化があります。大きく分けて以下の3つの理由が挙げられます。
1. 企業の「運用リスク」と「財務負担」の軽減
DB(確定給付)は、将来従業員に支払う年金額があらかじめ約束されている制度です。そのため、運用環境が悪化して想定利回りを下回った場合、企業が不足分を穴埋め(追加拠出)しなければならず、企業の財務にとって大きなリスク・負担となっていました。
一方、企業型DC(確定拠出)は、企業が毎月定額の掛金を拠出し、運用は従業員自身が行う制度設計です。企業側は将来の追加負担リスク(積立不足)を負う必要がなくなり、資金計画が立てやすくなるというメリットがあります。
2. 「働き方の多様化」と年金のポータビリティ
終身雇用が当たり前だった時代とは異なり、現代は転職や独立など、キャリアパスが多様化しています。
企業型DCは「ポータビリティ(持ち運び)」に優れた制度です。転職先の企業に企業型DCがあれば資産を移管でき、ない場合や独立する場合でもiDeCo(個人型確定拠出年金)へ移換して運用を継続できます。「自分の年金を持ち運べる」という特徴が、現代の柔軟な働き方に非常にマッチしているのです。
3. 従業員自身の「資産形成意識」の急激な高まり
新NISAの普及などを契機に、日本全体で投資・資産形成に対する意識が高まっています。
企業型DCは、掛金拠出時、運用時、受取時に税制優遇を受けられる、非常に有効な資産形成制度です。企業が掛金を出してくれて、かつ税制メリットを享受しながら自分で運用先を選べる企業型DCは、従業員満足度(ES)の向上に直結しやすい制度として高く再評価されています。
これから企業年金の導入・見直しを検討する企業へ
「大企業が導入するもの」というイメージが強かった企業型DCですが、現在では採用競争力の強化や従業員の定着(リテンション)を目的として、中小企業での導入も急増しています。
「加入者数の逆転」が示す通り、求職者側も「退職金制度として企業型DCがあるか」を企業選びの一つの基準にする時代に入ってきました。 もはや企業型DCは特別な福利厚生ではなく、「あって当たり前の制度(スタンダード)」になりつつあると言えるでしょう。
- 現在退職金制度がない企業様:採用力の強化と従業員の将来不安払拭のために。
- 中小企業退職金共済(中退共)やDBを利用中の企業様:制度の併用や移行による財務リスク軽減のために。
時代の変化に合わせて、自社の退職金・企業年金制度のあり方を一度見直してみてはいかがでしょうか。
まとめ
企業型DCの加入者数がDBを上回ったという事実は、日本の退職金制度における大きなパラダイムシフトです。「企業が運用して約束の額を払う」時代から、「企業が原資を出し、従業員自身が税制優遇を受けながら資産を育てる」時代へと主役が交代しつつあります。
SBIでは、企業規模を問わず、企業型DCの導入・設計から従業員様向けの投資教育までをトータルでサポートしております。制度導入に関するご相談など、ぜひお気軽にお問い合わせください。
【ご留意事項】
※企業型DCでの運用は加入者自身が行うため、運用成績によっては将来受け取る年金等の額が掛金総額を下回る(元本割れする)リスクがあります。
※本記事における税制上の取り扱いは作成時点のものであり、将来の税制改正等により変更となる可能性があります。
